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わたしだけのもの。
いやはや、この豪傑ども！ 「ああ、おれもこれで本懐をとげられるぞ！女性患者が何を言おうと、額面《がくめん》通りには受け取らないことにしたんです。子供のころ何度も父親に犯されたとか、兄に犯されたとか、そんなひどい話を本気にして聞くより、嘘だと考えたほうがすっきりする。人が多い街のほうが安全なんだ」 そうなのかもしれません。でも、弱音ははきません。代わりに、俺は自分の恐ろしさを女に分け与え、負担してもらおうとした。もうあがらない。そして、もうあと一回。 懲罰房で皮手錠をかけられ懲罰を受けるときの様子は、Ｄさんの取材のときはこのとおりに説明された。
お庭に大きなミモザアカシアの木があるお屋敷ですよねェ」。「奥様は、この近くにお住まいでいらっしゃいますか？柄谷は、マクベスは、何か理由の知れない憂鬱を背負い込んだ人間なんだと、そういうふうに論ずるわけです。しかし、人生が不条理だとか、世界が不条理だということすら言わないマクベスは、そういうことを言う者よりも、さらに徹底して、人生や世界の意味を拒絶していることになる。魂の奥底までのぞきこんでくるような視線だった。 これで“ネリヤの翼の道”が有効であることは証明された。うちなんか、所詮女やねんなァ。郵便局で訊いたら、二百部のＰＲ誌なら、郵送代に三百円くらいかかるということだったと令子は言いました。 もともと百九十も重量のあるその単車は、余分な重量を取り去られ、あるいは軽量の材質のものに替えられるなどして百五十キロまで減らしてあった。 その改造車は、スタンダード車ではコーナーで車体を左に寝かしたとき、すぐに接地してしまって危険なメイン・スタンドを外していた。
そういう否定的な超越性は、まさにその否定性を示すような超越性でなくてはならない。 だから、西田はこういうんです。奸智《かんち》によって栄達の道を拓いた。 バーブリューンを一望するように見ている。はっきりと歳を聞いたことはないが、啓一郎さまよりもいくつか年長のようだ。夏場は、着物の上に重ねるのはこれでも暑いのか、袖のない陣羽織のような形のものに変わる。走ることに比べれば、単調で、何と苦しい行為だろう。呻くとまた痛む。 とにかく、資本主義の転換期が、あるいは資本主義の挫折の時期が、昭和の「近代の超克」的な発想が宿りはじめた時期とちょうど対応しているんだということだけは、とりあえず確認しておきたいんです。だから、金本位制の挫折というのが、言ってみれば大恐慌がいかに大きな変化であったかということを象徴しているんだと言うことができるわけです。
しかし、患者の数が増えるにつれて、それなりに熟練したと思っています」 「患者の数？そうでないと、オカルトになってしまう。そんなことってあるだろうか。 「ねえ、きみ！そんな大金はありゃせん」 「ある。 佐和子の肩にかかったスリップの、左の｜吊《つ》り｜紐《ひも》の上端がはじけ切れた。 卑劣漢！卑劣漢！あいつもひとりで部屋にじっとしてるのなんか、つまんないだろう。 どこへ行ったんだ！
佐伯祐三だったか、それともユトリロのキャンバスだったか。検査が終って、車椅子で運ばれ、新しい病室のドアを開けた。佐藤も独創性に富んだ農政学者で、著書三百余種、その門下から多くの逸才を出していることは、改めていうまでもない。入れ替りに、今までの主治医だったＳ先生が「移りましたね。Ｏ先生は、 「——さん、これは効くと思いますよ。ところが、次号のために彼が寄せてきた論文は、一転して、熱烈な天皇賛美の文章だった。津田は、戦争や学問への当局の弾圧に抗して実証的な古代研究をしていた志操堅固なリベラリストです。それで世の中、済みまんのか」。令子は男の刺青を見て、青ざめました。この美食｜三昧《ざんまい》！
緊張は、しかし、よい意味では在《あ》る。いまのわれわれの頭で考えると妙なものだが、当時の著書は、ごく少数の例外をのぞいて、ほとんど漢文で書かれていたのだから、別に不思議でもなんでもない。ただし、本書は漢文で書かれていて、新渡戸稲造博士の『武士道』が英文で書かれているのと好一対だ。船の上からタイをつりあげたものもあった。 アメリカでリンカーンが奴隷解放の宣言を発したのは一八六三年で、六五年に修正公布された合衆国憲法第十三条においてこれを明文化した。あなたにお手紙を差し上げたことで、あるいは私は十年前の、あなたと離婚した直後の心の状態に戻ってしまったのかも知れません。あなたと正式に離婚してから二ヵ月ぐらいたった頃だったでしょうか、あなたも御存知のあの川沿いの玉川書店が店をたたみ、そのあとに「モーツァルト」という名の喫茶店が出来たのです。 「ときどき手首にあてがって、そっと切ったりしてるんです。 看護婦のひとりが小声で言った。目で挨拶し、モニターに視線をもどす。
長官がそんなあたたかな目をむけてくるはずがない。天皇というのは、もちろん日本でだけ意味をもつ。ですから昭和三十年代というイメージを持てるのは、日本人か日本に相当コミットしている人だけなんですね。 暗い孔に左腕を突っこむ。 水島の左手は、予備弾倉入れのポケットがついた｜革ケース《ホルスター》に入ったワルサーＰ38を引っぱりだした。 いったい全貌はどうなっているのか。 〈きみが周くんかい？建物はＴ字型をなして、どの部屋にも｜陽《ひ》が当たるように設計されている。 踊り場に出ると、公団アパートの群の窓々から漏れる光が、無数の宝石のようにまたたいていた。だから、なにも知らずに育ちました。
ソーマだとか相馬だとかそんなものだった。 「いえ、みな、司令官のお帰りをおまちしておりました」 「みんな、変わりはないな」 全員がうなずく。 「そんなわけで、わたしは、とりあえずパトナムの論文を参考書にして、真由美を診てゆくことにしました。真由美との面接をくりかえすうちに、その論文のことが頭をよぎって、ひょっとしたら、と思いました。その時になって、国報はやっと恵美子に気付いた。それとも習慣と名づけられた責め。そのつぶのひとつひとつがきえゆくときにみるゆめ。当時、浅野家は常陸の笠間からうつってきたばかりだったが、領内の荒れ地をひらいて新田をつくったり、塩田を開発したりして、収入の増加をはかった。あたりまえといえばあたりまえだろう。 死刑を言い渡されたものの苦しみが、己のことのようによくわかるからである。
同じ傑出した日本型の軍人でも、東郷や乃木は、シンガポールで敵将パーシバルを威圧した山下｜奉文《ともゆき》などとはちがった型に属している。それが日清戦争の結果、逆になった。 足元に視線を戻した。そういわれたことがある。 目の前の、長身でシャープな顔だちを持った三十男が、バケツの水を若林の顔にブッかけた。 ２ 夢を見ているようであった。ヘルメットも脱ぐ。三十畳ぐらいの広さで、一方の壁に熱風を吹きつける大きなダクトとファンがつき、天井からは百着ぐらいのシャツやブラウスなどがぶらさがっている。七〇年代の前半あたりを境にして、欠如に由来するルサンチマンの時代から、欠如のない時代へという移行が起きるんですね。